ニュースの概要
GovTech東京は11月6日、保育事業者が持つ資格・就労・研修などの証明情報をデジタル化し、自治体への申請や確認の手間を減らす実証実験に参加する事業者の募集を始めました。現在の保育現場では、保育士証の写しや勤務実績の書類を紙やPDFで集め、自治体に提出する運用が一般的です。自治体側も届いた書類を一件ずつ目で確認しており、双方に大きな事務負担が生じています。今回の実証では、デジタル資格証明の技術を使い、証明情報を安全に共有できるか、確認作業をどこまで自動化できるかを試します。保育士不足が続くなか、書類仕事に割かれる時間を減らす試みとして位置づけられます。
引用元: GovTech東京、保育士の資格・勤務情報をデジタル化する実証参加事業者を募集(GovTech東京)
分析・見解
保育現場の書類仕事は何が重いのか
保育施設が自治体に出す書類は多い。保育士証の写し、勤務実績、研修の修了証、配置基準を満たす証明などだ。これらは年度ごと、あるいは職員の入れ替わりのたびに集め直す。
負担が重いのは、書類の量よりも「同じ情報を何度も形を変えて出す」点にある。ある園長は施設型給付の申請、監査対応、処遇改善加算の実績報告で、同じ職員の資格情報を別々の様式に転記している。転記には誤りが入り込みやすく、自治体側の差し戻しも増える。
デジタル資格証明という仕組みの中身
デジタル資格証明とは、資格や研修の修了を、発行元の電子署名つきで持ち運べる形にしたものだ。紙の写しと違い、本物かどうかを機械が瞬時に確かめられる。偽造や改ざんの検出も容易になる。
仕組みの要は、本人や事業者が自分の証明書を自分で管理し、必要な相手に必要な分だけ見せる点にある。たとえば「保育士資格を持ち、今月も在籍している」ことだけを示し、住所や生年月日は見せない運用も可能だ。欧州ではデジタルIDウォレットの整備が進み、学位証明などで先行している。日本国内でも、大学の卒業証明や運転免許など、似た発想の取り組みが少しずつ広がっている。
検証の本当の難所は技術ではなく発行元の整備
この実証で注目すべきは、技術そのものより「誰が最初の証明を電子で発行するのか」という入口の問題だ。保育士証は都道府県が登録する資格である。研修の修了証は民間団体や自治体など、発行元がばらばらだ。
どこか一か所でも紙のままだと、そこから先の自動化は止まる。つまり電子化の効果は、最も遅い発行元に引きずられる。今回、事業者側の就労情報や研修情報も対象に含めたのは、この入口の穴を一つずつ埋める狙いがあると読める。
もう一つの難所は、勤務実態の証明である。資格は一度取れば有効だが、勤務は日々変わる。シフトや勤怠システムから証明を自動で出せるかどうかが、実用性を左右する。
保育士不足の時代に事務削減が持つ意味
保育士の有効求人倍率は、地域によっては2倍を超える水準が続いている。人を増やすのが難しいなら、既存の職員が子どもと向き合う時間を増やすしかない。
仮に園長と主任が書類作業に月20時間ずつ使っているなら、半分に減るだけで二人で月20時間が戻る。これは保育の質や職員の定着にも関わる。ただし電子化は導入初期に手間が増える。現場が使いこなせなければ、紙とデジタルの二重運用になり、かえって負担が増すおそれもある。実証の価値は、この落とし穴をどれだけ具体的に洗い出せるかにある。
ビジネスへの影響
保育事業者は今のうちに書類の棚卸しを始める
実証への参加有無にかかわらず、自園がどの書類を、いつ、どの自治体に出しているかを一覧にしておく価値は高い。同じ職員情報が何回出ているかが見えれば、電子化の効果が大きい書類から順に優先できる。
職員の資格情報は、紙ではなく表計算でもよいので、一元的に持つ形へ整えておきたい。将来デジタル証明に切り替える際の移行が楽になる。
システム事業者には連携しやすい設計が求められる
勤怠管理、シフト作成、園児管理などの保育ICTを提供する事業者にとって、資格や勤務の証明を外部に出せるかが新しい差別化の軸になりうる。実証への参加は、仕様づくりの段階で意見を反映できる好機でもある。
注意したいのは個人情報の扱いだ。必要最小限の情報だけを出す設計と、本人の同意を記録する仕組みを備えておけば、導入側の安心感が増す。
自治体との関係では電子化の遅れが信頼の差になる
将来、電子で確認できる園とできない園で、自治体の確認の速さに差が出る可能性がある。早く動く事業者は、申請から承認までの待ち時間が短くなる利点を得られる。一方、小規模園は費用や人手の面で出遅れやすいため、地域の事業者団体や自治体が支える形を求めたい。